大坂なおみさん「日本国籍選択宣言」と「日本人」とは何か?
【「偏見」をスマッシュしてゆく大坂なおみさん】
プロ=テニス=プレイヤーの大坂なおみさんが、今月10月に入ってから、日本国籍を選択する手続きに入ったそうです。これで、来年の東京オリンピックに日本代表として出場することができます。
これは、日本にとって大きな出来事であるとわたしは思っています。
いわゆる混血、しかも一般的な日本人とは肌の色がちがう人を「日本人」として見なさい人々による心ない人種差別の悪罵が大阪さんには投げつけられてきているでしょう(「混血」でも、白人との「混血」は羨望の的になるのが日本人の人種差別の特徴ですね)。
最近でも、有名企業に所属する「お笑い芸人」が大阪さんの「肌」について、ちっともおもしろくない、人種差別では昔っからのお決まりの差別発言をしたばかりです[注1]。
しかし、「日本人」であることをハッキリと選択した世界的な大阪さんが東京オリンピックで「日本代表」として活躍したり、今までのように活躍したりしてゆけば、そのような無様な偏見をぶち破ってゆくことになります。
大阪さんは、テニス選手としてだけではなく、そのような開拓者としても歴史を作っていく存在ですから、この辺は、いちボクサーを越えたプロ=ボクサーのモハメド=アリさんと似たようなところがあると言えるでしょう。
【日本人でありアメリカ人でもあるというアイデンティティ】
日本の国籍を取得しても、離脱手続きをしない限りアメリカ国籍は保有したままになりますから[注2]、大坂さんは、今後もアメリカと日本ふたつの国籍を持つことになります。
もともと二重国籍でしたが、わざわざ「日本国籍『選択宣言』」をしなければならなかったのは、日本の国籍法では、日本国籍を持ち続けたければ、その「選択宣言」を22歳までにしなければならないからです[注3]。
今回この手続きに入った、というわけです。
日本の国籍法では、「宣言」後は「外国籍の離脱に努める」との規定もありますが、「離脱」しなくても大丈夫ですので、今までのように大阪さんは「二重国籍」を持つことができます。
日本人でもあり、アメリカ人でもある、ということです。
【それでも「日本人」ではない?】
大阪さんは、振る舞いが日本人ではないとか、日本語が話せないとか、育ちがアメリカとかの理由で、“日本人ではない”と非難する人たちがまだまだいますが、果たして「日本人」とは何なのでしょうか?
拙文「母国語と母語」でこれについて言及した部分がありますので、ここにそれを抜粋いたします。よろしければ、全文はリンク先で御高覧ください[注4]。
【「日本人」とは何か?】
アイヌのように、所属する民族名と国名が一致しない場合、昨今では、民族やルーツのアイデンティティを示すべくそれらを「何々系」であらわして、国籍の「何々人」の前にくっつけるというやり方がおこなわれています。日本人であるアイヌは「アイヌ系日本人」です。
そして究極のところ、「日本人とは何か」といった場合、出生地や「血」が日本だとかアジアだとかには関係なく、はたまた日本を愛しているか否かということが根拠ではなく、日本の国籍を取得している人が日本人、ということになります。国籍により「何々人」が決まる、ということです。
普通いわれる「日本人論」に見られる「日本人とは何か」は、「日本民族とは何か」を暗に指していると考えていいでしょう。
しかしこれでさえ、誇りある東北人が“私は日本民族すなわち大和民族ではない”と喝破することがありますように、北海道・東北・関東・九州などの歴史や文化はそれぞれちがいますし、一地域に絞ったところでも細分化されていますから、おおざっぱな問いかけではあります。
執筆年7世紀の『隋書』の「東夷伝」には、「東で秦王国(はたおうこく)へと行き着く。秦の人々は華夏(中国人)とおなじなのに、なぜ夷州(野蛮な国)とするのかわからない」と書いてあります。
飛鳥時代の古代日本には「秦王国」という中国人の国が日本の地にあった、ということです。日本という国土において中国人と日本人は交流して“混血”していきましたから、まったく身に覚えがなくても、現代の日本人には華夏人の「血」、すなわち中国人の「血」も流れていることでしょう。中国人をそしることは己をそしることであり、逆も然りなのであります。
“これぞ日本人の心”なぞ定義できますまい。
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